登場人物みんな変【濡衣塚】

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登場人物みんな変【濡衣塚】

国道3号線沿い。御笠(みかさ)川にかかる石堂橋のすぐそば。頭上には福岡都市高速が走っています。

薄暗い通りの片隅ですので、つい見過ごしてしまっても仕方がありません。

そんなところに建つこちらの石碑が、濡衣塚です。

今から1200年ほど前、奈良時代のお話から始めましょう。

佐野近世という男がいました。

病身の妻と娘の春姫(16才)の3人家族。筑前守護職として博多に赴任しますが、妻が死んでしまいます。

悲しみに泣き暮らす娘を思い後妻を迎えたものの、この後妻は連れ子である春姫が疎ましくてしょうがない。

若さや美貌に対する嫉妬も。

ある時この後妻は、見知った漁師を金で釣り、近世に嘘をふきこみます。

「春姫が、自分(ここでいう漁師)の釣衣を盗んで困っている。どうにかしてくれ。」

さて近世が調べたところ、ぐっすり眠る春姫の上になんと濡れた釣衣がかけられていたのでした!…

もちろんこれは後妻のシワザ。なんて雑な手口でしょう。春姫と漁師の関係を匂わせる遣り口というわけでもなし。

全く穴だらけの後妻の稚拙な計画犯罪。さすがにこれはバレバレっすわ。

かと思いきや、この近世という男。信じます。なんの疑いもなく。それはもう激情するのです。

あのさあ。

ちょっと待ってください。冷静に考えたらですよ。

【検証】
その一。なぜ見知らぬ漁師の服を、うら若き美貌の女子(春姫)が盗むというのか。

その二。さらにですよ、それを寝る時に着ますか。かけますか。もちろん知らない人の服です。

どうも近世という男は冷静さに欠けるところがあるようですね。けれども、この春姫も負けずに様子がおかしいのです。

彼女、眠っているときに、濡れ衣をかけられてるわけですよ。びちょびちょやないですか。

びっくり目を覚ましてもよさそうですが、起きない。眠りが深いんですか。これも若さというのか。

こんな違和感ばりばりの状況にもかかわらず、近世はちっとも疑問を抱かない。

もういきなりキレてキレまくります。そして気づいた時には、春姫を斬り殺していたのでした。

話の続き。

ある晩、近世の枕元に涙する春姫が現れます。そして

「ぬぎ着する そのたばかりの 濡れ衣は 永きなき名の ためしなりけり」

「濡れ衣の 袖より伝う 涙こそ 無き名を流す ためしなりけり」

とかなんとか、自分が無実だと訴えるために2つの歌を詠むと、すうっと消えていきました。

ここで、ようやく春姫の死に疑問に感じた近世。

後妻を問い詰め真実を知り、自分の過ちを悔いて出家します。

そして娘の冥福を祈るために堂宇を建てたのでした。(完)

この濡衣塚は春姫のお墓、そして無罪の罪に落とされる「濡れ衣を着る」という言葉の発祥の地です。

もともと聖福寺西門近くにあったものが、江戸時代に石堂川(御笠川)東に移転。さらにその後河川改修に伴い現在の場所へ。

【濡衣塚】

福岡県福岡市博多区千代3丁目2